先生からのメッセージ
- 近畿大学医学部附属病院 血液・膠原病内科 准教授
- リウマチセンター長(代行)兼務
患者さんの生活背景も考慮した治療選択
関節リウマチの治療においては、患者さんの生活背景を把握し、トータルマネジメントとして診療にあたることが大切です。この基盤を築くため、日常診療では患者さんの仕事や趣味、生活環境といった情報をお聞きし、診療の中で活用しています。これらの情報は、患者さんの日常や求める生活を理解する上で貴重な手がかりとなります。高齢者の場合は併存疾患の有無、家族構成や同居状況、居住地域、住居形態、エレベーターの有無、病院までの距離と移動手段などの情報も不可欠です。これらを踏まえ、患者さん一人ひとりのニーズに合わせたオーダーメイド治療を心がけています。
関節機能の維持が重要
関節リウマチ患者さんにとって関節機能の維持は重要です。関節の拘縮を防ぐために、①手のひらを握ったり開いたりする運動や指と指の間をはなしたりくっつけたりする運動、②手のひらにスポンジをおき、ゆっくりと握ったりはなしたりする運動、③肩を前後や上下に動かしたり、回す運動、④腕を上下に動かしたり外側に回す運動や肘の曲げ伸ばし運動、⑤椅子に座って片脚ずつ持ち上げる運動や膝の曲げ伸ばし運動などを毎日少なくとも1回、無理のない範囲で行うことをお勧めします。これらにエアロバイクや温水プールでの水中歩行などの関節への負担が少ない全身運動を組み合わせるとより効果的です。
感染症予防と栄養管理が不可欠
感染症予防と栄養管理にも心がけていただきたいと思います。
特に免疫抑制作用のある治療薬を使用する際は感染リスクが高まるため、適切な予防策が不可欠です。こまめな手洗いとうがい、外出時のマスク着用などを徹底することが推奨されます。主治医と相談の上で各種予防接種を検討することも重要です。
栄養管理に関しては、関節リウマチに合併しやすい骨粗鬆症や貧血のリスクを軽減させるため、たんぱく質、ビタミンD、鉄分、カルシウムをバランスよく摂取することが推奨されます。
なお、サプリメントについては、関節リウマチに対する効果が科学的に証明されたものはありません。葉酸や海藻類を含むものなど、一部の抗リウマチ薬の効果を減弱させる可能性があるものもあります。これらの理由から、サプリメントの使用を検討する際は、必ず事前に主治医に相談することが重要です。
定期的な経過観察で治療を見直す
関節リウマチの治療は長期にわたります。生物学的製剤などの治療開始時には「いつまでお薬を続けるのか」とよく質問されますが、「まずは1年から1年半は継続してください」と答えています。ただし、漫然と続けるのではなく、3か月後、6か月後、1年後と定期的に経過観察を行い、関節エコーなども使用して病状を診ながらお薬を減らしたり増やしたり、あるいは変更していきます。完全寛解が確認できれば、休薬も検討可能です。このように定期的に病状を確認し、治療を見直していくことは、患者さんの不安軽減や治療へのモチベーション維持、服薬アドヒアランスの向上につながります。
なお、お薬の必要性や効果に疑問を持ちながら治療を続けることは治療効果の低下につながる可能性があります。そのような場合は、遠慮なく主治医にご相談ください。
ご家族の理解と協力も治療の一翼を担います。特に服薬管理においては、ご家族が患者さんの服薬状況を把握し、適切にサポートすることで治療効果を高めることができます。また、できれば診察時にはご家族に同席して頂くことで医療者とご家族全体で治療サポートが可能となりますので是非ご同席をおすすめいたします。
関節リウマチ治療において薬物治療はご本人のご理解やご家族のサポートがあってこそ、初めて効果は最大限発揮されるものと私は実感しております。
野﨑 祐史 先生
1999年近畿大学医学部卒業。同年同大学医学部第三内科学教室入局。
2006年同大学医学部附属病院腎臓・膠原病内科助教。2008年Department of Inflammatory Disease, Monash Medical Centre,Australia。2011年近畿大学医学部附属病院腎臓・膠原病内科医学部講師。同年同院血液・膠原病内科医局長。2012年同院血液・膠原病内科医学部講師。2022年より現職。
近畿大学医学部附属病院
病床数:919床
所在地:大阪府大阪狭山市大野東377-2