先生からのメッセージ

体内の微生物叢のバランスを整えることが重要

  • 聖隷横浜病院 膠原病・リウマチセンター センター長
Yamada Hidehiro
山田 秀裕先生

微生物叢のバランスの乱れが関節リウマチの発症に関わる

 関節リウマチは、遺伝的素因のある人において、体内の微生物の集まり(微生物叢)のバランスの乱れが免疫系に影響することで発症すると考えられています1,2)。すなわち、微生物叢のバランスの乱れが長期化すると、ウイルスや細菌などの外敵を攻撃するはずの免疫能が自分自身を攻撃してしまう自己免疫反応が起こり、関節の炎症や損傷などの関節リウマチ症状が現れるようになるのです。現在の薬物治療は関節の炎症を抑えることはできますが、根本的な治療には自己免疫反応を抑えることが必要です。そのためには、体内の微生物叢のバランスを整えることが大切となります。

山田 秀裕先生

化学物質を含む食品を避け、口腔内を清潔にする

 体内の微生物叢のバランスを整えるためには、まず食事を見直していただきたいと思います。食品添加物や農薬、除草剤など化学物質が含まれる食品は腸内の微生物叢(腸内細菌叢)のバランスを乱し、関節リウマチのほか、がんやアレルギーなどの発症リスクを高めるといわれていますので避けるようにしましょう3)。腸内細菌叢を整えるためには、オリーブオイルや野菜、魚介類を多く摂る地中海食、あるいは納豆などの発酵食品が有益だと言われています4,5)。その詳細はまだ研究段階ですが、腸内細菌を整えて便通を改善することで、関節リウマチの症状改善が期待できる可能性はあります。

 口腔内の微生物叢のバランスを整えることも重要です。適切な歯磨きと定期的な歯科検診を行い、歯垢を除去し、歯周病や虫歯は必ず治療してください。喫煙も関節リウマチのリスク因子です。歯周病の原因になる6)ほか、やはり免疫にも影響します7)ので、禁煙を心がけていただきたいと思います。

体を冷やさないよう心がける

 関節リウマチでは、体を冷やさないことも大切です。冷えると関節組織への血流が少なくなり、炎症が悪化する恐れがあります。反対に、体を温めると循環が良くなり、関節の炎症物質が血流にのって排出され、症状の改善につながります8)。家の中は暖かく保ち、入浴はシャワーで済まさず湯船に浸かるようにしてください。また、冷えるとウイルスが活性化しやすくなりますので、体を温めることは感染予防にもなります。

ご家族もマスク着用や手洗いで感染予防を

 患者さんのご家族には、関節リウマチは荷物を持つ、あるいは普段より少し多く歩いたなどの些細な関節への負担が症状を悪化させる可能性があることをご理解いただきたいと思います。関節が痛い、腫れるなどの症状がある間は、患者さんが無理をしないようご家族は家事などを手伝ってあげてください。また、治療では免疫を抑える薬を使用するために、患者さんは感染症にかかりやすく、重症化しやすくなります。ご家族もマスク着用や手洗いなどの感染予防対策を行い、患者さんに感染させないよう心がけてください。

 患者さんが自分の病気を治そうという意欲を持たなければ治療はうまくいきません。ご家族も患者さんに寄り添って、前向きに治療に参加していただければと思います。

山田 秀裕先生

参考文献

  • 1)Zhang X, et al.: Nat Med. 2015; 21(8): 895-905.

  • 2)Zhao T, et al.: Front Immunol. 2022; 8(13): 1007165.

  • 3)Zhou X, et al.: Molecules. 2023; 28(2): 631.

  • 4)Ghosh TS, et al.: Gut. 2020; 69(7): 1218-1228.

  • 5)Natasha K, et al.: Nutrients. 2022; 14(7): 1527.

  • 6)F Rivera-Hidaigo. J Periodontol. 1986; 57(10): 617-624.

  • 7)Qiu F, et al.: Oncotarget. 2017; 8(1): 268-284.

  • 8)Brosseau L, et al.: Physical Therapy Reviews. 2002; 7(1): 5-15.

山田 秀裕先生

山田 秀裕

1981年慶應義塾大学医学部卒業。同大医学部リウマチ内科。1989年米国国立衛生研究所(NIH)Visiting Fellow。1991年米国海軍医学研究所Visiting Associate。1992年聖マリアンナ医科大学内科学(膠原病・アレルギー)助手。1994年同科講師。1998年同科助教授。1999年同大リウマチ・膠原病・アレルギー内科(名称変更)助教授。2008年同科診療部長。2011年同科病院教授。2016年より現職。聖マリアンナ医科大学客員教授。2017年神奈川県内科医学会リウマチ・膠原病対策委員会委員長(兼務)。

聖隷横浜病院

病床数:367床
所在地:神奈川県横浜市保土ヶ谷区岩井町215

取材:2024年
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