先生からのメッセージ

適切な手術時期の選択が大切

  • 慶友整形外科病院
    副院長/整形外科部長/慶友リウマチセンター長
Ayabe Keio
綾部 敬生先生

患者さんの生活機能の維持・改善を視野に入れた手術を行う

 当院は整形外科専門の病院で、約1,200人の関節リウマチの患者さんが通院されています。手術治療を中心に診療を行っており手術件数は年間4,000件を超えます。関節症状だけでなく、患者さんのADL(日常生活動作)が低下しないよう、生活機能の維持・改善を視野に、関節リウマチ関連の手術についても四肢関節から脊椎、骨折までのすべてを行っています。

綾部 敬生先生

関節を温存する手術が主流に

 近年、生物学的製剤など薬物療法の進歩により関節破壊の進行抑制が可能となったため、人工関節置換術などの手術は減少傾向にあると言われています。しかし、現在でもすべての方が治療目標を達成できるとは限らず、合併症を持つ高齢患者さんでは、副作用などの懸念から十分な投薬治療ができずに炎症のコントロールが困難なため関節破壊が進んでしまう方もいらっしゃいます。また、患者さんの高齢化が進み、関節リウマチによる関節変形に加齢的な変化が追加される場合もあります。

 手術としては、膝関節、股関節の人工関節置換術のほか、炎症の主体である関節の滑膜を切除する滑膜切除術、変形した手足の指の手術などがあります。変形した足趾の手術では、炎症のコントロールが可能になった現在では、以前行っていた関節を切除する手術ではなく、関節を温存する手術が普及しています。最近は、薬物療法の進歩も相まって、大きい関節よりも小さな関節の手術の割合が増え、術後の疼痛コントロールも良好になっています。

 なお、手術は「動けなくなったら受ける」とおっしゃる患者さんもいらっしゃいますが、筋力の衰え、骨量の低下、関節可動域の制限などが著しくなると手術成績が劣ることが多くなり、適切な時期を逃さないように主治医とよく相談することが大事です。

感染や内臓疾患にもご注意を

 関節リウマチでは、痛い関節症状に目が行きがちですが、感染症などの関節外症状にもご注意いただきたいと思います。そもそも関節リウマチの患者さんは、免疫の弱点を持っているため感染症には注意が必要ですが、治療薬の多くは免疫を調節する作用があり、風邪やインフルエンザ、新型コロナなどのウイルス感染症には注意が必要です。体調を崩しリウマチ治療薬の休薬期間が長引くことでリウマチの症状に悪影響を与えてしまうことがあります。こまめな手洗いや消毒、感染流行期には人込みを避けるなどの基本的な感染症対策が必要です。

 さらに最近では、高齢な患者さんの中に慢性の呼吸器感染症である非結核性抗酸菌症や症状のない間質性肺炎を持った患者さんが増えているように思います。また、腎機能の低下とともに心臓血管疾患を合併する方も多く、かつ骨粗鬆症も加わりロコモティブシンドロームからフレイルへと日常生活動作の低下へつながる方も増えています。関節は腫れや痛みなどの自覚的症状がありますが、肺などの内臓は症状に乏しく認識しづらいところがあり、採血検査、採尿検査、胸部CTなど画像での評価による定期的なモニタリングが大切です。

綾部 敬生先生

ウォーキングなどの運動を積極的に取り入れる

 老化は足から始まるとも言われます。自分の力で歩けなくなることにより車椅子生活や寝たきりにつながり、体の機能全体が弱っていくことがあります。関節リウマチ患者さんも、関節の痛みや腫れが悪化しない程度にウォーキングなどの適度な運動を行うことが大切です。

 ご家族など周囲の方は、病気や薬のことを十分に理解し、「チーム医療の一員」として患者さんを支えていただきたいと思います。

綾部 敬生先生

綾部 敬生

1992年群馬大学医学部卒業、同年同大医学部整形外科入局。1998年慶友整形外科病院に勤務。2007年から2011年まで東京女子医科大学東医療センター整形外科非常勤講師。2022年から現職。

慶友整形外科病院

病床数:137床
所在地:群馬県館林市赤生田町2267番1

取材:2023年
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