先生からのメッセージ

治療は劇的に進歩しています。怖がらずに早期受診を

  • 金沢大学附属病院 リウマチ・膠原病内科長 病院臨床教授
Kawano Mitsuhiro
川野充弘先生

関節リウマチ治療は劇的に変わりつつある

 関節リウマチ専門医として患者さんにいちばんお伝えしたいことは、治療が革命的といえるほど劇的に進歩しているということです。治療を続けてさえいれば、今は関節リウマチがあっても仕事や妊娠・出産などを制限されずに過ごすことができるようになりました。しかし日常診療では、治療選択肢がほとんどなかった時代の悪い印象を引きずったまま、なすすべもない恐ろしい病気だと思い込んでいらっしゃる方が多いことに驚かされます。特に若い患者さんは将来を憂い、不安の塊のようになって来院される方も多いので、ぜひ最近の治療について知っていただければと思います。いま日本では関節リウマチ専門医が増えています。専門医にきちんと相談すれば、どこまで良くなるか、わかりやすく説明してくれるでしょう。診断が早いほど治療も早期に開始できます。どうか怖がらず、まずは専門医を受診いただければと思います。

川野充弘先生

足に腫れや痛みはありませんか?

 関節リウマチの疾患活動性(病気の勢い)は、一般に左右の肘、肩、手首、膝という8個の大関節と、手首から先の細かい20個の合計28個の関節で評価することになっています。これには足首から先の関節は含まれていませんが、実は足の関節もリウマチの炎症が起きやすい箇所です。診察では時折「足にたこができていませんか?」などと言いながら足の様子もお尋ねするようにしていますが、患者さんは足については尋ねられるまで症状を訴えないことが多いようです。足病変の発見が遅れ、変形が進んでてしまう可能性も出てきますので、患者さんご自身でも時々足を確認いただき、気になることがあれば診察時にお話しいただければ幸いです。

人間関係、体の無理、気圧や温度…ストレスも大敵

 関節リウマチでは精神的にも身体的にもストレスが疾患を悪化させる可能性があります。体調が悪いと言う患者さんのお話をよくよく伺ってみますと、いつになく無理をされていたり、夜眠れていない、ご夫婦間のいさかいやご家族の不幸があったといったことがよくあります。

 ストレスについては生活環境も忘れてはいけません。雨が降って気圧が下がると関節リウマチが悪化するという京都大学の研究があります1)。また、夏の冷房なども悪化の原因となりますので、冷やしすぎは避けましょう。特に暑がりの人がいる職場では患者さんが希望する室温より低く設定されていることがあります。このような場合は上司に相談するなどして、冷房を弱に設定できるようにしていただくとよいでしょう。湿度も関節リウマチに影響しますので、湿度が高すぎる場合は除湿機を上手に使うなど、ご自身の状況に合わせ様々な工夫で環境を整えてください。

川野充弘先生

歯周病や喫煙にも注意

 歯周病や喫煙も関節リウマチの発症や悪化のリスクになることが知られています2)。この背景に共通していると考えられる要素にシトルリン化タンパクと呼ばれるたんぱく質があります。例えばポルフィロモナス・ジンジバリスと呼ばれる歯周病菌の感染症は関節リウマチの誘因になることが知られていますが、この菌は特殊な酵素を出し、シトルリン化タンパクを産生します。すると私たちの免疫システムはこれを異物とみなして抗体を作ります。関節リウマチ患者さんではリウマチを発症する以前からこのシトルリン化タンパクに対する抗体価が高くなっていることが報告されています3)

 同様に喫煙でも肺などにシトルリン化タンパクが産生されることが知られています4)。シトルリン化タンパクと関節リウマチの関連についてはまだ研究途上ですが、患者さんには歯周病があれば治療していただくようお話しし、禁煙をお勧めしています。

治療が途中でうまくいかなくなったら

 関節リウマチの治療が途中でうまくいかなくなったときには、その原因を突き止めなくてはなりません。それまで使っていた薬が効かなくなってきた(二次無効という)場合には治療薬を変更しますが、がんなど別の要因が加わったために治療がうまくいかなくなっている場合もあります。関節リウマチがある方では、ない方に比べ悪性リンパ腫や肺がんが多い5)こともあり、がん検診は日ごろから受けていただくことをお勧めしています。

 治療を成功させるには、処方薬を飲まなかったときがあれば隠さず教えていただき、注射剤が苦手であれば遠慮せず言っていただくといった本音のコミュニケーションが大切です。昨今医療者の間では、医師と患者さんが情報を共有し、両者が納得したうえで治療を選択し、進めていくべきとするシェアード・ディシジョン・メイキングが盛んに言われるようになってきました。また、患者さんが思う改善と医師が思う改善は違うという認識ギャップも話題になっていますので、医療の進歩をどんどん治療に取り入れて患者さんに還元しつつ、ギャップを埋められればと考えています。患者さんにはぜひ遠慮せずなんでもお話いただきたい、それが専門医の願うところです。

参考文献

川野充弘先生

川野 充弘

1987年金沢大学医学部医学科を卒業し、同医学部大学院医学系研究科を修了する。1993年金沢社会保険病院内科血液浄化療法部部長に就任する。2019年より金沢大学附属病院リウマチ・膠原病内科長、病院臨床教授を務め、現在に至る。

金沢大学附属病院

病床数:830床
所在地:石川県金沢市宝町13-1

取材:2022年
Page top