先生からのメッセージ

人生100年時代を見据えた関節リウマチ治療

  • 信州大学医学部内科学第三教室 准教授
  • リウマチ・膠原病内科 診療教授・科長
Shimojima Yasuhiro
下島恭弘先生

個別化医療の実現を目指す

 近年、関節リウマチは、科学的根拠に基づき、標準治療が確立されてきています。しかし、実際には、患者さんによって病状や生活背景、合併症は異なりますので、標準治療をベースにおきながらも、一律に同じ治療を行うのではなく患者さん一人ひとりに合った治療を行うように心がけています。

 高齢化が進む中、当科でも高齢の関節リウマチ患者さんが増えています。しかし、高齢の患者さんと言っても、昔のように一線を退いて静かに過ごされている方は少なく、80代、90代になっても精力的に活動されていたり、重責を担っている方がたくさんいらっしゃいます。したがって、治療アプローチも以前とは大きく変わり、かつてはできるだけ痛みを取り、苦痛なく余生を送っていただくことを治療目標としていましたが、最近は人生100年時代を見据え、加齢に伴って生じる生理機能の低下に留意しながらも、患者さんそれぞれの幸せな日常を送っていただけるような治療の提供を目指すようになっています。

下島恭弘先生

病状が進行しないうちに適切な治療を

 一方で、病状が落ち着いているにもかかわらず、悪化を恐れ、自ら行動に制限をかけている患者さんも多いようです。病状が悪い時の痛みは関節を引きちぎられるようだと言いますので、悪化を恐れるのは仕方ないかもしれません。しかし、治療の選択肢は増えてきており、悪化した時には対応策もあります。体調が良い時は無理のない範囲で日常生活を楽しんでいただきたいと思います。

 「マラソン大会に出てもいいですか」といった質問が患者さんからあった場合は、そういう気持ちになるくらい症状が良くなっているということですから、肯定的に答えています。逆に言うと、マラソン大会に出たい方が出られるくらいの、登山が趣味の方なら再び山に登れるくらいの寛解を達成することが今の関節リウマチの治療目標なのです。

 とはいえ、関節破壊が進行してしまうと目標達成は難しくなりますので、早期受診・早期診断・早期治療が大事です。

下島恭弘先生

治療内容はご家族とも共有して

 関節リウマチ患者さんに心がけていただきたいことの一つに毎日の入浴があります。体を清潔に保つことが感染症の予防になるほか、湯船に浸かり体を温めて血行を良くすることが炎症や痛みの緩和につながります。古くから温泉は関節リウマチに良いとされてきましたが、そういう意味では理にかなっていると言えるかもしれません。

 反対に体を冷やすと、血行が悪くなり、関節周りの筋肉がこわばって痛みが生じますので、アイシングは外傷性の痛みに対する応急処置以外は避けていただきたいと思います。

 治療に関する情報は、ご家族にも共有していただきたいと思います。ご家族の意見が、治療をためらう患者さんの背中を押すこともあります。また、関節リウマチの治療薬には、体調がすぐれない場合には休薬する必要があるなど、扱いが難しいものがあります。患者さんご自身が判断に迷う場合もあるので、いつも近くで見ている方が適切なアドバイスをしてあげることがとても大切になります。

下島恭弘先生

下島 恭弘

1999年鳥取大学医学部卒業。同年信州大学医学部附属病院第三内科研修医。2010年同附属病院脳神経内科、リウマチ、膠原病内科講師。 2011年スタンフォード大学医学部 Immunology & Rheumatology 留学、2015年信州大学学術研究院医学系内科学第三教室准教授、同年同大学医学部附属病院リウマチ・膠原病内科診療科長、2019年より同科診療教授。

信州大学医学部附属病院

病床数:717床
所在地:長野県松本市旭3丁目1-1

取材:2022年
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