先生からのメッセージ
- 岡山大学学術研究院 医歯薬学域 研究准教授
- 岡山大学病院 リウマチ膠原病内科 診療副科長
- 岡山大学病院 運動器疼痛センター 副センター長
関節リウマチには骨粗しょう症の合併が多い
関節リウマチ患者さんには骨粗しょう症が多いことが知られています。関節リウマチになると、炎症を起こす物質(炎症物質)が体内でたくさん作られ関節が壊されていきます。この炎症物質は骨にも悪い影響を与えるため、関節リウマチがあると骨粗しょう症にもなりやすくなってしまうのです。
関節リウマチの炎症物質は骨も壊す方向に作用
骨は一見、固く動かない物のように見えるかもしれません。ところが実際にはダイナミックに形成と破壊を繰り返す生きた臓器であり、骨を作る骨芽細胞と骨を壊す破骨細胞が、骨を作っては壊し作っては壊しを繰り返して均衡を保っています。関節リウマチの炎症物質は骨を作る骨芽細胞を弱めて骨を壊す破骨細胞を強める働きがあるため、新たに作られるより壊される骨が多くなり、骨がもろくなります。また、運動はカルシウムの沈着を促して骨密度を高め、骨芽細胞の活性化を助けますが、関節リウマチによる痛みや関節の変形があると十分な歩行や運動ができなくなりますし、関節リウマチの症状を緩和させるために使われるステロイド薬の副作用で骨粗しょう症が出ることもあります。骨粗しょう症は女性に多いことが知られていますが、関節リウマチの患者さんも全般的に女性が多いこともあり、骨粗しょう症は関節リウマチによく見られる合併症のひとつになっています。
治療はまず関節リウマチの活動性を抑える
骨粗しょう症のある関節リウマチ患者さんの治療は、関節だけでなく骨を壊すことにもつながる関節リウマチそのものの病勢(活動性という)を抑えて炎症を取る薬物療法が第一で、治療薬には抗リウマチ薬や生物学的製剤が用いられます。そのうえで破骨細胞を抑える薬や骨芽細胞を刺激し活性化させる薬などの骨粗しょう症治療薬を順に使用しながら、少なくとも1年に1度は大腿骨や背骨などの骨密度を計測し、骨密度をコントロールしていくという2本立てになると思います。
骨を健康に保つ―散歩の効用
日常の骨粗しょう症対策ですが、関節リウマチ治療薬の中には、免疫を抑える作用により感染症になりやすくなるものもありますし、新型コロナ感染症にもまだ配慮する必要があります。このため患者さんには感染症には十分気を付けていただきながら、散歩などで体を動かしていただくようお話ししています。また痛みがあると動きにくくなりますので、治療では痛みを取る対策にも気を配っています。
散歩の目安は、80歳を超えたお年寄りでは無理のない範囲で1日3000歩程度、80歳以下の方は、関節リウマチが落ち着き歩行に支障のない方であれば、健康な骨のためにも1日1万歩という目標を持っていただくようお伝えしています。
治療は早いスピードで進化し続けている
医療は日進月歩と言いますが、関節リウマチは治療の進歩が特に著しい領域で、毎年新薬が登場し、3年前の教科書は古くて使い物にならないくらいです。私たち医師は心して勉強していかないと、瞬く間に時代遅れになってしまいます。患者さんを適切に診療するために危機感を忘れず日々勉強しなくてはと思いつつも、進化する治療を追い続けるのは容易ではなく、「少年老い易く学成り難し」という朱熹の言葉を日々肝に銘じています。
治療の進歩は患者さんにとっては朗報です。関節が破壊されてしまう前に腫れと痛みを完全に収めることができれば、基本的には薬を使い続けながら、関節リウマチにかかる以前と変わりなく生活することも可能になっています。特に若い方では診断名を聞いただけで暗くなる方もおられますが、治療法はこの15年間で劇的に進歩していますし、女性の方でしたら妊娠・出産もあきらめることはありません。関節リウマチに捉われず、仕事やスポーツなども不自由なく行えるようになることを目指して、主治医と適切な治療法のご相談をいただければと思います。
松本 佳則 先生
2003年岡山大学医学部医学科を卒業。2011年同大学大学院医歯薬学総合研究科を修了し、カナダ トロント大学に留学。2017年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学に帰局し、2019年岡山大学病院 リウマチ膠原病内科 診療副科長、2020年より同大学大学院医歯薬学総合研究科 研究准教授、2021年同大学病院運動器疼痛センター 副センター長ならびに同大学学術研究院医歯薬学域 研究准教授に就任し、現在に至る。
岡山大学病院
病床数:817床
所在地:岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1