先生からのメッセージ
- 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学 特任助教
関節リウマチ患者さんは高齢化しています
昔、関節リウマチ患者さんは若い女性が多かったので、関節リウマチは若い人の病気だという印象をお持ちの方は少なくありません。実際、高齢の方を関節リウマチと診断した時に「この歳でリウマチになるのですか?信じられない!」と驚かれたことがあります。
関西の大学病院が中心となって立ち上げ、私も参画しているANSWERコホートという研究でも、関節リウマチは1960年代では20歳代での発症が最も多かったのですが、1990年代には40歳代の発症が多くなり、近年では60歳代での発症が多くなっており、時代とともに発症年齢が上がっていることが示されています。
また、関節リウマチになったら寿命が10年短くなるといわれてきましたが、最近は治療が良くなっているため予後も改善しています。その意味でも近年では高齢な関節リウマチ患者さんが増えています。これは日本に限った話ではなく世界的にも同様の報告がなされています。
関節リウマチは時間によって日によって状態が大きく変わります
リウマチとは流れる水というラテン語が由来で、水が流れるように時間によって日によって状態が大きく変わります。例えば激しい関節痛で寝込んだ日の次の日は無症状だったということもあります。寛解するまでは毎日の予定は少し物足りないくらいにしておくよう患者さんにはお伝えしています。
ご家族など周囲の方々には関節リウマチの変化が理解しづらいことがあります。関節痛のために大切な試験を休んで、翌日元気になったから遊びに行ったところ、ご家族から仮病を疑われて責められたという患者さんもいらっしゃいました。他人の痛みや辛さを理解するのはなかなか難しいものですが、患者さんと一緒に病気に向き合ってもらえるように周囲の方々にも関節リウマチの特徴を説明しています。
仕事や趣味、結婚や出産などを簡単に諦めないでください
関節リウマチは、生物学的製剤が登場する前までは制御することが難しい病気でした。そのため、関節リウマチと診断されたばかりの患者さんやご家族の中には、仕事や趣味、結婚や出産などを諦めなければならないと考える方がいらっしゃいます。確かにかつては様々なことを諦めざるを得ない時代もあったと聞き及びますが、今は違います。現在の治療でも残念ながら薬を使わない状態で長期的に良い状態を維持すること(治癒)は難しいのですが、薬をきちんと使えば長期的に良い状態を維持すること(寛解)は可能です。現在では寛解を達成し、制限なく仕事をしている方、スポーツなど趣味を楽しんでいる方、妊娠・出産をされている方はたくさんいらっしゃいます。関節リウマチと診断されてもいろいろなことを簡単に諦めず、主治医と一緒にやりたいことを目指して治療に取り組んでいくことが大切です。
注意点としては、関節リウマチは治癒が難しいため治療を続けることが必要だということです。治療で関節痛が落ち着くと、「もう治ったので薬をやめてもいいのではないか」と思うのは当然だと思います。しかし、薬を中断すると数か月以内に状態が悪化することがほとんどです。治療を継続することがいかに重要かを示しています。
栄養バランスの取れた食事と、運動習慣を心がけましょう
関節リウマチの治療は、薬、リハビリテーション、手術、ケアが4本柱です。患者さんがご自身でできることとしては、栄養バランスの取れた食事と、運動習慣の重要性をお伝えしています。
関節が痛い時は調理が大変なため、お湯をかけてすぐ食べられる食事や袋を開けたらすぐ食べられるといった食事になりがちです。すると、炭水化物に偏りがちで、タンパク質、ミネラル、ビタミンなどが不足するといった食事内容になってしまいます。これが関節リウマチに筋肉量が減少するサルコペニアや骨密度が下がる骨粗鬆症の合併率が高い理由の1つです。栄養バランスが良く手軽に食べられる食材として、サラダチキン、ちくわ、ソーセージ、ゆで卵、バナナ、キウイなどが勧められます。また、関節に負担が少ない調理器具を使ったり、症状の軽い時に作り置きをしておくのも良いでしょう。
関節が痛い時に運動することは難しいと思いますので、治療である程度関節痛が改善した段階で、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけるよう提案しています。サルコペニアや骨粗鬆症対策にもなりますし、関節周囲の筋肉の拘縮の予防にもなります。運動は毎日続けられることが重要です。例えば運動習慣が全くない患者さんなら、新聞を毎朝取りに行くというくらいの軽い負荷から始めることを提案します。また、ゲームやアプリを使うなど楽しみながら運動できる工夫も重要です。
沖田 康孝 先生
2010年九州大学医学部医学科卒業。2014年同大大学院医学系学府医学専攻博士課程修了。同年倉敷中央病院初期研修医。2016年大阪南医療センターリウマチ膠原病アレルギー科。2020年大阪大学大学院医学系研究科特任助教。2023年同大医学部附属病院・未来医療開発部・未来センター特任助教。
大阪大学医学部附属病院
病床数:1,086床
所在地:大阪府吹田市山田丘2番15号