先生からのメッセージ
- 京都府立医科大学大学院医学研究科
- 内分泌・免疫内科学 病院教授
喫煙者は禁煙外来の受診を
関節リウマチの発症に関する遺伝の影響は、一卵性双生児の研究などから3割程度と考えられています。後の約7割は環境因子が影響し、主なものとしては喫煙や歯周病、感染症などが挙げられます。そしてこれらの因子は、関節リウマチ患者さんが日常生活で気をつけるべき点と共通しています。たばこを吸い続けると、肺で関節リウマチの原因とされる自己抗体が作られ、免疫反応が続いて関節破壊が進行します。さらに、喫煙は肺組織が壊され肺に空気がたまり、うまく息が吐けなくなる肺気腫を引き起こし、肺組織が硬くなって呼吸しづらくなる難病とされる間質性肺炎の発症につながりかねません。このようなことから、たばこを吸っている方は、まず禁煙することが大切で、当科では喫煙者には禁煙外来の受診をお勧めしています。
歯科での定期的な歯のクリーニングも
また、歯周病による慢性的な炎症は関節の腫れや関節破壊と関係しています。適切な歯磨きによる毎日の口腔ケアのほか、3ヶ月に1回程度歯科での歯のクリーニングがお勧めです。歯周病を治療すると抗リウマチ薬の効果が上がることもわかっています。他の疾患にも当てはまりますが、口腔ケアは非常に大事だと思います。
高齢者では感染対策が大切
関節リウマチ患者さんは、病気の進行や治療により外敵から身を守る自己免疫機能が低下することが多く、感染症にかかりやすいとされています。最近は高齢になってから発症する関節リウマチ患者さんが増加していますが、高齢者が感染症にかかると重症化してしまう恐れがあります。このため、感染症対策は極めて重要です。手洗い、うがい、マスクの着用といった基本的な感染対策のほかにワクチンのある感染症については、その予防接種を受けることも有用とされます。新型コロナワクチン、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンなどがありますが、どのような予防接種をいつ受けるかについては体調や服用薬との兼ね合いもありますので、かかりつけの医師とよくご相談ください。ワクチンのない感染症としては、カビの一種である病原体で引き起こされるニューモシスチス肺炎や土壌や水回りに菌が生息している非定型抗酸菌症などもありますので、用心が必要です。
炊事では関節に負担がかからない工夫を
関節リウマチでは、家事が重労働となりがちで、毎日の炊事はできるだけ関節に負担がかからないような工夫が必要です。①手首に負担がかからないよう鍋やフライパンは軽量なものを使う、②包丁を握る時は小指に負担がかかり腱が断裂しやすくなるので皮むき器などを利用する、③座って作業できるよう椅子を利用する、④調味料は手の届くところに置く、などが挙げられ、当科でもお勧めしています。また、ご家族の方には「朝のこわばり」など患者さんの辛さを十分理解していただき、できるだけ家事のサポートをしていただきたいと思います。関節リウマチ患者さんに対してはトータルケアが重要で、チーム医療を充実することが求められていますが、ご家族もその一員としての意識を持っていただければ幸いです。
川人 豊 先生
1987年島根大学医学部卒業。1995年京都府立医科大学医学博士。同年米国国立衛生研究所(NIAMS・リウマチ部門)客員研究員。2004年京都府立医科大学大学院医学研究科生体機能制御学講師。2007年同大免疫内科学講師を経て、2010年同科准教授、2011年同科教授(学内)。 2012年より現職。
京都府立医科大学附属病院
病床数:1,065床
所在地:京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465